肉用牛経営と野菜団地を結ぶ有明堆肥利用組合
有明堆肥利用組合
 
<<本事例を地域振興部門の推薦事例として優れたものとして評価する理由>>
本事例は、畜産と園芸の複合経営農家の強いリーダーシップの下で堆肥による土づくりを通じて畜産と地域の園芸農家が連携し、共存・共栄しながら地域農業の振興を図った事例である。本事例では、昭和53年に設立された有明堆肥利用組合を核にして経営規模の拡大が図られ、現在では肥育牛250頭、園芸作付面積19ヘクタールからなる生産団地を形成しており、耕畜連携による地域農業のあり方を示す優良な事例と言える。
 

1.地域の概況
 

1.有明堆肥利用組合のある観音寺市は、香川県の西端に位置し、県庁所在地高松市から西へ56kmに位置にある。

2.風向明媚な瀬戸内海に面した農業の盛んな地域で、海岸畑地帯は施設野菜、平坦水田地帯は露地野菜と畜産、山麓部においては果樹類などを組み合わせた耕地利用率の高い農業経営が行われている。

3.有明地区は、温暖で、雨の少ない沿岸地帯の気象条件と砂地を生かして、集団的に潅水施設の整備、良質堆肥を利用した施設園芸と露地野菜を組み合わせた集約的な農業が展開されている県下でも屈指の施設野菜産地を形成している。

 

2.活動目的と背景
 
有明堆肥利用組合(組合員24名)は、昭和53年に野菜農家と連携して設立、土づくりのために農地還元されている堆肥の品質向上とさらなる利用の促進を目的として設立され、有明地区の畜産と園芸農家をつなぎ、有明地区の農業振興に大きな役割を果たしている。
 

3.活動内容
 
(1)具体的な活動内容等

(ア)良質堆肥生産への取り組み

有明堆肥利用組合設立以前は、砂質土壌のため保水性が悪く肥料成分が流亡し、化学肥料による肥培管理で、収量・品質にバラツキが有り連作障害による病虫害が発生し、作目の転換を迫られる時期もあり農家所得は不安定であった。これらの問題を解消するため、堆肥舎等の整備に向けての要望が高まってきた。

そのため、昭和53年11月に畜産農家3名、施設園芸の野菜農家17名で有明堆肥利用組合(組合長:合田政光、昭和53年から現在に至る。)を設立し、堆肥舎(1棟)と切返し用のショベルローダ(1台)、堆肥運搬のための改造ダンプ(2台)を補助事業で整備・活用の導入等を通じて、計画的かつ、効率的な堆肥の生産供給システムが確立された。

これにより、良質堆肥を生産し、農地還元することにより土づくりができ野菜の安定生産が図られた。また、土づくりによって施設園芸に取り組むことができ施設野菜団地が形成され県下を代表する特産地となっている。

利用する敷料は、有明地区の畑は海に近く、施設園芸用地の塩類集積の問題が考慮して、平成元年からコストは掛かるが利用量の80%を国産材(高知県本山町から調達)のオガクズに変更し、対応している。

さらに、良質堆肥を生産するため、また、堆肥利用農家からの要望もあり、いろいろな微生物資材を添加するなどして堆肥化し、その堆肥を利用した試験栽培も行ってきた。

(イ)堆肥散布への取り組み

平成8年に車両直装型の堆肥散布車を共同導入し、散布労力の大幅な軽減、堆肥散布車を活用した切り返し作業により堆肥の粉砕を行うことによって、良質堆肥の生産に取り組んでいる。

散布にあたっては、有明堆肥利用組合の取り決めとして、事前に利用農家と散布日程・時間等を打ち合わせ、1:散布時には堆肥利用農家に待機してもらい、臭いの発生を予防するため散布後1時間以内に耕起してもらう、2:17時以降は散布作業を行わないようにして夕食までには耕起を終える、3:利用前には堆肥の品質・状態を野菜農家に確認してもらい、納得のいく堆肥の利用を心がけている。

また、堆肥散布車を導入する時に有明地区の野菜農家と協議し、堆肥散布料として5,000円/2tを設定したが、堆肥の円滑な利用促進と利用した野菜農家の負担を軽減するために、観音寺市や香川県農協観音寺支店に働きかけ、平成12年から完熟堆肥を購入・利用した場合に、利用農家に対して市と農協から1車(2t)当り各1,000円の助成支援を受け、堆肥利用農家の負担を3,000円としている。

JA香川県三豊営農経済センター園芸部野菜花草課長

有明地区は典型的な砂質土壌で露地栽培はレタス、ネギ、施設栽培はセルリ、トマト、メロンを中心に栽培して土地の有効利用している。砂地ゆえに水分や肥料成分を抱える力が小さく土づくりが非常に重要となる。その為、有明出荷組合に有明堆肥利用組合が出来てから堆肥処理施設で作られた堆肥を投入してきた。その結果、連作障害もなく収穫物の品質も良好で消費地からも喜ばれている。

もし、この堆肥が無かったら現在の園芸産地の存続が危なかったと言っても過言では無い。

今後もより一層の良質堆肥を利用して次の次の世代まで安心して農業経営が存続できる地区にしたい。

 
 
(2)実施体制
 


4.活動の年次別推移
 
有明施設園芸組合のハウス施設面積拡大と飼養頭数の変遷
年 次   ハウス面積 飼養規模
昭和42年 肥育牛導入肥育開始   3頭
昭和47年 有明施設園芸組合設立 74a 50頭
昭和48年 畜舎増設、肥育農家3戸 120a 250頭
昭和50年代 露地野菜で冬・春穫りレタスやスイートコーン、ミニセルリーを導入、土づくりが懸案事項となる
昭和53年 有明堆肥利用組合設立 355a 250頭
昭和59年 肥育農家2戸、野菜専業に転換 430a 150頭
昭和60年 畜舎改築・増設 510a 180頭
平成 7年 畜舎新築(肥育後期用) 510a 200頭
平成11年 畜舎新築(肥育後期用) 640a 220頭
現 在 640a 250頭
 

5.活動の成果・評価
 
(1)活動成果の内容

ア.耕畜連携による地域農業における成果

堆肥の利用によって保水性、肥培管理が改善され、収穫量・品質が向上し収益性の向上が図られ露地野菜のみならず施設園芸への取り組みが定着している。このことが有明地区の野菜団地として発展し農家所得の向上ひいては農家経営の安定・向上につながり後継者も他の地域に比べ多く就農している。野菜団地の発展の一端は有明堆肥利用組合の良質堆肥の供給が支えている。

また、有明堆肥利用組合と有明出荷組合の結びつきは、家畜排せつ物処理についても大きな役割を担っておりており環境問題に関する心配はない。

イ.園芸産地の育成、発展

有明堆肥利用組合の堆肥を利用している有明施設園芸組合は、昭和51年には施設野菜合理化推進モデル事業により規模拡大が図られ、施設園芸産地の地位が確立された。

さらに、有明堆肥利用組合を設立し、土づくりに努めたことにより露地野菜とともに施設面積も大幅に増えた。

また、出荷額は香川県農協観音寺支部内組合員5,000戸中有明出荷組合員39戸で野菜共同出荷総額の約1割を占めるまでになっている。

レタスは有明堆肥利用組合の良質堆肥主体の肥料を使い、農薬散布を減らした本県レタスを代表するブランド「らりるれレタス」の栽培に平成3年より取り組んでいる。

ウ.地域の活性化

認定農業者も地区としては14名と多く、その人達を中心とした輪ができており、意見交換等が定期的に行われている。

また、堆肥を利用した施設園芸を導入したことで、野菜産地として立脚し、一定以上の所得を安定して得ることができたため、Uターンして就農した人も多かった。現在はその子供達が就農して今後の担い手として活躍を期待されている。

副次的な効果として若い後継者がいることから、平成11年からは地域の秋祭りでの太鼓台の復活や、瀬戸内海国立公園の指定地域である有明地区の松並木の防除や植林・下草刈り等を有明地区総出で行えるようになった。

 

 
(2)成果を現す指標
  有明地区の認定農業者数は14名(平成17年8月末現在)で観音寺市(79名)の18%を占めている。また、農業従事青年数(39歳以下)は11名(観音寺市33名)で、33%を占めている。このように、有明地区の担い手がお互いに競争し、協力することによって、有明地区を活性化し、農産物売り上げ700万円以上の農家数は39戸中21戸となっている。
 
 
(3)今後の課題

 堆肥の利用時期が集中しているため、利用時期によっては完熟堆肥の供給ができず、一部未熟な堆肥供給となっている。そのため、堆肥化施設の増設による処理能力の向上と堆肥化期間の短縮を図り、常に良質堆肥を供給できる体制を確立する。

ハウス内での堆肥利用にあたっては人力での散布であるため、負担となっている。さらに、高齢化が進めば、今以上に労働負担となるため、堆肥を継続的に利用できるような体制を整えるため機器の整備を行なう。

有明地区の野菜残さで家畜に利用できないものの堆肥化による資源循環の検討を行い、より進んだ資源循環型農業を確立。

 

6.普及にあたっての留意点
 
地域における各種営農集団等の組織を統括調整する組織の形成
有明地区においては地区畑作振興協議会が設置されており、有明地区内の合意形成や総合調整機能が働いている。また、有明地区は畑作が中心であり、野菜産地に特化していることから共通の認識、課題が多く、一致団結して課題解決に取り組みやすい。
 

 
7.活動に対する受益者等の声(評価)
 

有明施設園芸組合員(ハウス栽培:セルリー、ミニセルリー、トマトの促成・抑制栽培、露地野菜:ネギ、レタス栽培)

堆肥利用は10a当り年間ハウス栽培には5t、露地栽培には7t程度の堆肥を散布している。

園芸専業農家として経営が維持・継続できているのは、有明堆肥利用組合の良質堆肥の安定供給によるもので、後継者夫妻も就農、経営移譲も行うことが出来た。

堆肥供給の畜産側と園芸農家の信頼関係が保たれおり、他の園芸組合員も全員が有明堆肥利用組合を利用しており共存共栄の関係にある。経営の安定・所得の向上を図るためにはこれからも引き続き良質堆肥の安定供給を期待している。

観音寺市農林水産課主幹

有明地区は、県下を代表する野菜産地であり、砂質土壌のため、早い時期から、堆肥の導入による「土づくり」が重要であると考え、有明堆肥利用組合よって生産された堆肥を地区農地に還元している。また、地区リーダーとして国・県等の補助事業を積極的に活用し、園芸施設等の先見性に富んだ営農の地区導入にも積極的に携わっており、平成3年には、有明地区畑作振興協議会長となり、普及センター・市・農協の指導による環境保全型農業への取り組みも積極的に行っている。

JA香川県三豊営農経済センター園芸部野菜花草課長

有明地区は典型的な砂質土壌で露地栽培はレタス、ネギ、施設栽培はセルリ、トマト、メロンを中心に栽培して土地の有効利用している。砂地ゆえに水分や肥料成分を抱える力が小さく土づくりが非常に重要となる。その為、有明出荷組合に有明堆肥利用組合が出来てから堆肥処理施設で作られた堆肥を投入してきた。その結果、連作障害もなく収穫物の品質も良好で消費地からも喜ばれている。

もし、この堆肥が無かったら現在の園芸産地の存続が危なかったと言っても過言では無い。

今後もより一層の良質堆肥を利用して次の次の世代まで安心して農業経営が存続できる地区にしたい。

 

 
8.事例の特徴や活動を示す写真
  
有明地区野菜団地 中央に見えるのが堆肥生産の要である畜舎及び堆肥舎

 

 
堆肥散布.1 作付け終了した隣接畑境界付近での堆肥散布は慎重に行う
 
堆肥散布.2  スプリンクラーを避けながらの耕起
 
堆肥散布.3  堆肥散布後、道路の清掃
 
肥利用作物.1 露地栽培ネギ
 
堆肥利用作物.2 施設園芸・セルリ
 

総合学習風景 近郊小学生が熱心に説明を聞いている
 

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