肉用牛
肥育
経営

地域の施設園芸とともに歩んだ肉用牛経営

肉用牛と施設園芸との共存共栄を目指して

合田政光・文子

 
1.地域の概況
 

 観音寺市は、香川県の西端に位置し高松市から西に56km、風向明媚な瀬戸内海に面し、南は阿讃山脈を境に徳島県と接しており、東西13km、南北20kmの長方形である。面積は49.09km2、その大部分は財田川・柞田川による扇状地であるため平坦で肥沃な耕地で、そこに農業地帯を形成し、西部地域に商業と漁業地帯が密集している。

 地形及び地質については、阿讃山脈を背後にひかえ、西は第3期末期にできたと言われる燧灘に面し、財田川のつくる三豊平野と柞田川・一ノ谷川がつくる小低地を発達させているなど地形も地質も複雑である。地質を構造上から分類すると阿讃山脈とその前面にある山麓の丘陵台地と沖積低地及び海岸付近の花崗岩の丘陵、北部の上に讃岐岩質安山岩をのせる溶岩台地からなっている。

 気候については、平均気温15.1℃、最高35.2℃、最低−2.4℃と温暖である。降雨量は年間1424.0mm、湿度は平均69%である。

 従来から恵まれた自然条件を生かし、米麦・たばこを中心とした農業が行われてきたが、近年、耕地の高度利用・多毛作へと発展し、海岸畑地帯は施設野菜、平坦水田地帯は露地野菜と畜産、山麓部においては果樹類などを組み合わせた多角経営を展開して、需給の動向に応じた耕地利用率の高い(平成14年:127.6%、県平均97.6%)農業経営に努めている。

 平成12年における総農家数は2,215戸、経営耕地面積は1,228haで、平成14年の主な農作物の作付面積は水稲743ha、レタス311ha、グリーンアスパラガス19haとなっている。畜産は、乳用牛28戸968頭、肉用牛34戸4,270頭、豚8戸4,520頭、採卵鶏32戸747千羽、ブロイラー3戸75千羽となっている。農業産出額(粗生産額)は736千万円、耕種は464千万円、畜産は272千万円である。

 近年、農業従事者の高齢化、兼業化が進んでいるが、収益性の高い畜産・果樹・施設園芸等では若い担い手が育っている。

 特に、合田氏が経営を営む有明地区は、海岸の砂質土壌の畑地を高度利用した県下でも屈指の施設野菜産地であり、32戸(専業28戸、兼業4戸)が25haでトマト、ネギ、セロリ、メロン、レタス等を栽培している。

 

2.経営管理技術や特色ある取り組み


(1)経営実績とそれを支える経営管理技術、特色ある取り組み内容とその成果等
 

経営実績とそれを支える経営管理技術、
特色ある取り組み内容とその成果等

左記の活動に取り組んだ動機、背景、経過や
その取り組みを支えた外部からの支援等
1.経営に合った素牛の導入
自己の目標とする肥育牛生産と経営を実践するため、素牛は資質系(但馬系)と増体系(気高系)の交配牛を導入している。 経営安定のためには、肉質だけでなく、増体も非常に重要であると考え、導入に当っては、農協担当者と過去に出荷した牛の枝肉成績、種雄牛の検定成績と事前に送付されてくる市場セリ名簿を参考に、事前検討を十分に行っている。
 
素牛導入は市場に赴き、自分で買い付けを行っている。 素牛の良し悪しは肥育経営の重要なポイントである。そのため市場に赴き、自分の目で見て確かめることが必要と考え、自分の経営条件にあった素牛、また自分の飼養条件に合った資質を持った素牛を事前に検討し、これを基に農協担当者と相談し、買い付けている。
  
導入素牛の産地は経営効率を考え、平成4年頃から九州の一地域にほぼ統一している。 当初は九州のいくつかの地域から導入していたが、導入を繰り返すうちにある地域の素牛の収益が高いことと自分の飼養管理に合っていることがわかり、また、この地域では血統による種雄牛の掛け合せがしっかりしていること、導入頭数を十分に確保できること等からこの地域からの導入を行っている。
 
3.飼養管理技術の改善
去勢牛群の中に雌牛を2割程度入れることで、牛群の行動に落ち着きができ、アタリも減り、雌牛の仕上がりが早くなるなど、良い効果がでている。 以前は去勢牛と雌牛をそれぞれ群分けして飼育していたが、雌牛の方でアタリが多く、対処法を考えていた。偶然に去勢牛の中に雌牛が紛れ込んだが、そのまま様子を見ていたところ、牛群の行動が落ち着き、屠殺時にアタリも発生しなかったため、以後この飼育方法を取り入れた。また、雌牛は素牛価格が安く、増体を良くすれば、収益性が去勢牛より高くなると考えた。
 
仕上げ期の管理として、出荷前5〜6ヶ月間は2頭ずつの群飼を行っている。(導入時から2頭飼育までは10頭の群飼である。) 肥育後期での喰い止まりやストレス等に対する個体管理を強化し、出荷牛のバラつきを減らすと共に牛舎の回転率を上げている。
 
日常の観察管理に重点を置いており、夜10時にも見回りを行っている。 瀬戸内地方は、日没から21時過ぎまで「瀬戸の夕凪」として、風が弱くなる。このため送風機を調節して送風し、少しでも快適な環境を作り出している。
特に、導入後数ヶ月間と他の牛房への移動時における事故防止のため、朝夕の飼料給与時、野菜作業の合間はもとより、毎日夜の10時に必ず牛舎を見回り、牛の健康状態や餌の摂取具合を確認している。
 
4.省力化・低コスト化の取り組み
飼養管理面では、購入粗飼料を倉庫ではなく、牛舎の飼槽前に納入させ、省力化している。 作業の効率化や省力化を考えた結果、購入粗飼料の倉庫から牛舎までの運搬は、重く、労力もかかるし、二度手間と考え、販売業者に指示して納入時に飼槽前に数個ずつ固めて置くようにしている。
 
地域独自の増体用の配合飼料として、他の配合飼料に比べビタミン含量の多い「肥育前期用」、タンパク含量の多い「肥育後期用」を開発し、配合飼料の統一化やコスト低減等を図っている。 地域のリーダーとして、枝肉成績のレベルアップによる収益の増加や、成績不良の農家をなくすため、平成7年から全農の協力を得て地域独自の配合飼料の開発に取り組んだ。
 
飼料コストの低減と増体を良くするため、未利用資源である枝豆殻を短期間(6月下旬〜8月下旬)ではあるが、給与している。 地域の耕種農家における残渣処理の軽減と未利用資源の有効活用による育成期の粗繊維給与による腹づくり、飼料コストの低減を図るため、導入直後の10ヶ月齢から14ヶ月齢の牛に給与している。
 
5.出荷
肉質はA4クラスで色、きめ、しまりに重点を置き、出荷目標を和牛去勢牛は肥育日数600日で体重750kg、雌牛では肥育日数620日で体重700kgにしている。
平成15年における去勢牛の出荷時平均体重は740kg、雌牛では669kgでの出荷である。
出荷目標を達成するために、出荷前の2頭飼いでは飼料給与時の飼槽への首の出し方と餌喰いなどの行動を観察し、牛の強弱がある場合には牛群の組み換えを行っている。特に、餌の摂取状況は良く観察し、残飼がある場合には、餌をかき混ぜたり餌の入替え等を行い、餌喰いが止まらないように気をつけている。
 
6.飼養技術の研鑚
大分県(第6回)、岩手県(第7回)、岐阜県(第8回)と3回連続で全国和牛能力共進会に出場している。 島根県で開催された第5回の全国和牛能力共進会を見に行った時、スケールの大きさに驚き、一度は自分の実力がどの程度通用するかチャレンジしようと思ったのがきっかけである。また、次世代の種雄牛が見られ、今後の素牛導入の参考にしている。
 
講師を招いて飼養管理技術研修会を毎年開催している。 肥育農家のリーダーとして部会員の飼養管理技術の向上と、開発した配合飼料のフォローアップのため、各農家の肥育成績の検討と牛舎の巡回を行い、講師によるアドバイス等を受けている。
 
7.地域との連携・協同の取り組み
自ら野菜と肉用牛の複合経営を展開するとともに、野菜産地のリーダーとして野菜の施設化や新規作物の導入に取り組んでいる。 野菜づくりの基本は土づくりであることから、肥育牛を飼い、堆肥を作り始めた。地域における野菜産地の発展のために堆肥を供給し土づくりに努めると同時に、自ら施設園芸組合の代表に就任してリーダーシップを発揮し、施設園芸に取り組んでいる。
 
地域に根ざした資源循環型の家畜排せつ物処理・利用 土づくりのため、地域の施設園芸の規模拡大にあわせ、肉用牛の増頭を行い、地域への堆肥供給を担ってきた。昭和53年に共同堆肥舎、平成9年に堆肥散布車を整備して、野菜農家との共存共栄を守っている。
 

3.経営・生産の内容


(1)労働力の構成
平成16年7月現在 
区 分 続 柄 農業従事日数 年   間
総労働時間
備  考
(作業分担等)
うち畜産部門
  本 人 267  124  2,136  全体を総括
263  98  2,104  牛の管理、野菜管理
家 族 33  23  263  敷料の交換
家 族 109  0  870  トマト
家 族  H16.4月から就農 飼料給与、トマト
 
常 雇
臨時雇 のべ人日 
1人×50日 
    441  野菜
労働力
合 計
6人  722日  245日  5,814 時間   

(2)収入等の状況
平成15年4月〜平成16年3月 
区 分 種 類
品目名
作付面積
飼養頭数
販売量 収 入
構成比

農業
生産部門
収入

畜 産
肥育牛

250頭 

133頭 

(3)89.0% 

耕 種
 トマト

20a 

42,000kg 

6.2% 

メロン

25a 

5,100 

1.3% 

セロリ、ミニセロリ

42a 

20,800kg 

2.7% 

エダマメ

20a 

625kg 

0.2% 

レタス

20a 

5,350kg 

0.6% 

127a 

 

11.0% 

合 計
 

100.0% 

(3)土地所有と利用状況
平成15年4月〜平成16年3月 
区 分

実 面 積

備 考

うち借地

うち畜産利用地面積





4a 

0a 

0a 

野菜

15a 

0a 

0a 

野菜
樹園地

a 

a 

a 

 

19a 

0a 

0a 

 



牧草地

a 

a 

a 

 
野草地

a 

a 

a 

 
ハウス

45a 

0a 

0a 

野菜

45a 

0a 

0a 

 
畜舎・運動場

35a 

0a 

35a 

共同堆肥舎含む
共同利用地

a 

a 

a 

 

(4)家畜の飼養状況
単位:頭 
区 分 肉 用 種
去勢
若 齢 その他 若 齢 成 牛
期 首 190  1  39  1  231 
期 末 203    48    251 
平 均 206.6    43.6  0.6  250.8 
出 荷 102  1  29  1  133 

4.経営・活動の推移
 
年次 作目構成 頭(羽)数 経営および活動の推移
S38  野 菜  東京の会社を辞めて就農。地元会社に勤めながら、
 野菜を中心とした兼業農家となる。
 肥育牛を導入し、肥育経営を開始。
 勤めを辞めて専業農家となる。
S42  肥育・野菜  乳用種   3 頭   畜舎新設、黒毛和種の壮齢肥育が中心となる。
 ビニールハウスを導入し、施設園芸を開始。
S43   黒毛和種  50 頭   枝豆、レタス、ほうれん草の作付けを始める。
 畜舎を増設する。
 セロリ及びメロンを導入。
S45    共同堆肥舎を建設。若齢肥育が中心となる。
 畜舎を改築及び増設する。
S48   黒毛和種 148 頭   制度資金を利用して畜舎の改築を行う。
 肥育後期用牛舎を新設、肥育頭200頭になる。
S52    鉄骨ハウスを建設、水耕トマト栽培を始める。
S53      堆肥散布車を共同で導入。
 肥育後期用牛舎を新設
S60   黒毛和種 170 頭   肥育部門は黒毛和種に一本化する。
  乳用種  10 頭 
S62    
H7   黒毛和種 140 頭 
H9 乳用種   60 頭 
H11 黒毛和種 180 頭 
交雑種  40 頭 
H13 黒毛和種 260 頭 

5.家畜排せつ物処理・利用方法と環境保全対策

(1)家畜排せつ物の処理方法・利活用
 各群の敷料の交換は、所有牛舎を3群に分け、3週間毎にローテーションを組んで行っている。牛舎から搬出された家畜排せつ物は共同堆肥舎に堆積し、搬入後約60日後と90日後にショベルローダにて切返しを2回程度行っている。その後、20日〜30日後に堆肥の粉砕と切返しを兼ねて堆肥散布車を利用して行っている。さらに15日程度堆積した後に堆肥散布車にて圃場に散布している。散布にあたっては、事前に利用農家と散布日程を打ち合わせするとともに、堆肥の品質・状態を確認してもらっている。レタスとセロリの作付け前での利用が多いため、堆肥の散布時期は6月〜12月が中心となっている。
 また、敷料として利用しているオガクズについては、施設園芸での利用が多く、農地への塩類集積をさける必要があることから、耕種農家の要望を聞き、敷料は国産材のオガクズを利用するようにし、現在は8割程度の利用となっている。
堆肥生産にあたっては作付け作物、土質、耕種農家の要望にそった堆肥の生産・供給に努めている。

(2)家畜排せつ物の利活用
内 容 割合(%) 品質等(堆肥化に要する期間等)
販  売 95  堆肥利用時期:7月〜12月に散布
堆肥化期間:約6ヶ月
交  換    
無償譲渡    
自家利用 5  野菜作付け圃場に利用
そ の 他    

(3)処理・利用のフロー図

(4)畜舎周辺の環境美化に関する取り組み
 牛舎の入口等に草花を植えたプランターを置き、牛舎周辺の環境美化に配慮している。
また、潤沢なオガクズの投入により、常に良好な牛房床面を確保するようにしている。
 堆肥散布時に近隣住民に不快な思いをさせないよう、事前に散布時間等を耕種農家と打合せし、散布時には圃場横で待機してもらい、散布後すぐに耕起してもらうほか、17時以降は散布作業をしない。ハエの発生が見られたら、直ちに防除を行い、発生を防ぐ。

6.後継者確保・人材育成等と経営の継続性に関する取り組み

 後継予定者が大学卒業時には、年齢的にまだ若く、自分の経験から一度は農業以外の仕事に従事し、色々な経験を積むことで就農後に大いに役立つと考え、農外へ勤務させているが、2〜3年後には就農する予定である。
 素牛の導入等にも同行しているが、まだまだ飼養管理のノウハウを十分に伝えることができていない。牛飼いの仕事は奥が深いため、一人前になるには5年はかかると思っているため、今後もできる限り作業等を一緒に行い、きめ細かい部分を理解してもらっていきたい。

7.地域農業や地域社会との協調・融和についての活動内容

 肥育経営において、観音寺市の肥育部会長を長く歴任している。本年6月には、新たに設立したJA香川県三豊肥育部会の初代部会長に就任している。
 野菜経営においても、地域のリーダー的存在であり、畑の立地条件を生かした、施設野菜の栽培に取り組んだ。その後、有明施設園芸組合を設立し、野菜農家に堆肥を供給して土づくりを推進するため、野菜団地の中心にある自己農地を提供し共同堆肥舎の建設を行い、現在に至っている。
 地域においては、地元自治会長として、地区の行事には率先して参加、清掃活動には、ショベルローダ等機械の提供を行っている。
 また、香川県農業士としても、モデル経営者として地域農業の振興と若い担い手の育成活動に当たっている。

8.今後の目指す方向性と課題

 畜産経営として、肥育素牛の導入は全て県外からであるが、肥育素牛の自己生産を目的として部分的な一貫経営導入を考えている。この内、繁殖部門を経営の新たな一部門として行うにあたり、家族の協力が不可欠であり、家族協定も含め真剣に取り組んでいきたい。
 また、地域との共存共栄、連携を深めていくために、野菜残渣などの未利用資源を積極的に利用し経営コストの低減を図る。更に、肥育経営で利用できない野菜残渣を堆肥生産に利用することで、地域との資源循環型農業を一層推進していきたい。そのための規模拡大については、地域での堆肥の受け入れ可能量を見極めながら進めていきたい。

9.事例の特徴や活動を示す写真

野菜団地の中心に位置する牛舎と周辺で栽培されているネギ・大豆
肥育前期の飼育構成は1牛房で去勢牛8頭、雌2頭の10頭で飼育